特別講演
『網膜色素変性(Retinitis Pigmentosa: RP)の診療はこう変わる!』
九州大学 眼科 准教授 村上 祐介 先生
(ハーバード大学留学 趣味:登山)
概要
網膜色素変性(RP)は網膜遺伝性疾患の中で最も頻度が高い疾患の一つ(glaに次いで2位)
であり、現在のところ根治的治療は存在しない。原因遺伝子は90種類以上が同定されており
、桿体細胞の関連遺伝子異常により視細胞が変性する。症状は夜盲から始まり、進行ととも
に錐体細胞も障害され最終的に失明に至る。
主な検査
・眼底カメラ、HFA10-2、FAF、OCT、ERG などを用いる。
・FAF(自発蛍光):感度が高く、AFリングなど特徴的な所見を示す。低蛍光領域は視野障
害と対応する。
・OCT:EZライン(ellipsoid zone)の狭小化・消失が進行の指標。オプトスも有用。
・ERG:初診時に施行。Rod、Cone、Bright flash、30Hz flickerの4モードがある。
問診・社会福祉支援
夜盲、家族歴、日常生活でのニーズを把握し、障害者手帳申請などの社会的支援を考慮する
。
合併症
・黄斑浮腫:22.5〜37.9%で発症。抗VEGF薬は効果乏しく、トルソプト点眼が有効。
・白内障:若年で発症しやすく、単純な白内b内障手術の説明では不十分。EZラインが保たれて
いても術後視力低下を生じることがある。Zinn小帯脆弱例が多く、レンズ径の大きい3ピー
ス(例:NX-70S)が推奨される。
治療と最新動向
IRD(遺伝性網膜疾患)に対するゲノム治療が実用化段階に入りつつある。
・ルクスターナ(Luxturna):RPE65変異によるレーバー先天盲(LCA)に対する治療薬。
RPE65はビタミンAの視サイクルに必要。ウイルスベクターによる網膜下遺伝子導入で機能
回復を図る。
・RPGR関連RP(XLRP):X連鎖性RPの70〜90%を占め、10歳未満から夜盲を発症。
・Usher症候群:感音性難聴にRPを合併する疾患で、耳症状が先行することが多い。
創薬・研究動向
北米市場が40.1%を占め、抗VEGF薬が33.0%。遺伝子治療・細胞治療分野の成長が著しい。
特にアジア市場の拡大が期待されている。
RPにおける神経炎症と新規治療の展望
眼内炎症マーカーが視力および視力低下速度と関連。炎症性単球が新たな治療ターゲットと
されている。ビタバスタチンナノ粒子の静脈投与により錐体細胞死が抑制されることが報告
されており、今後の治療応用が期待される。